持久系スポーツが強いノルウェーのコーチたちは何を語る?
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ノルウェーは人口がわずか540万人ほどの小国ですが、持久系スポーツの世界では屈指の実力を誇っています。
クロスカントリースキー、バイアスロン、スピードスケート、ローイング、ロードサイクリング、スイミング、トライアスロン、そして陸上競技長距離と、多くの競技で国際大会の表彰台を賑わせてきました。
具体的な選手名を挙げれば、
クロスカントリースキーのヨハネス・ホスフロット・クレボ、
バイアスロンのヨハンネス・ティングネス・ベー、
トライアスロンのグスタフ・イデンとクリスティアン・ブルンメンフェルト、
陸上のヤコブ・インゲブリクトセン。
彼らは、いまや競技を象徴する存在です。
そんなノルウェーが作り上げたトレーニング方法は、他の欧米諸国の選手にも大きな影響を与えています。
昨年発表された研究では、ノルウェーのトップコーチ12名を対象に詳細な聞き取り調査を行い、その強さの秘訣に迫っています。
対象となったコーチは、総計370個以上の五輪・世界・欧州選手権メダル獲得に関与してきた一流の指導者たちです。
彼らがかなり細かい部分まで答えている点に、ノルウェーの持久系スポーツ界が科学を重視している姿勢を感じます。
ここでは陸上競技長距離にフォーカスをあてながらも、競技種目を超えて共通する普遍的な部分にも触れていきます。
陸上長距離では、年間の練習量はおおむね600〜700時間、セッション数は550〜625回程度。
ロードサイクリング(1000〜1200時間)やトライアスロン(1200〜1400時間)など、他の競技に比べると短く、荷重運動であるランニングの特性を踏まえた結果といえます。
話が逸れますが、他の競技に比べて、年間のトレーニング量が少ないという背景も踏まえ、長距離ランナーは専業でなくても、成功できると私は考えています。
話を戻します。
ノルウェーでは、強度の捉え方が競技を横断して共通となっており、ゾーン1(Z1)〜ゾーン6(Z6)の6段階を、心拍数(%最大心拍数)、酸素摂取量(%最大酸素摂取量)、血中乳酸濃度、主観的運動強度(RPE)をもとに定義します。
現場ではこれらを総合的に判断してセッションの狙い(Time in Zone法ではなく、Session Goal法に近い考え)に落とし込み、競技種目が違っても比較可能にしています。
※強度についてはこちらの記事もご参照
持久系トレーニングの強度配分を分析するハウトゥーとエッセンス
強度についてもう少し整理しておくと、Z1とZ2は低強度(LIT)、Z3が中強度(MIT)、Z4〜Z6が高強度(HIT)です。
3段階(Z1~Z3)で見た場合、Z2は中強度に相当しますが、6段階でみるとZ3が中強度です。
強度配分は競技を問わず似通っています。
低強度がセッションの大部分を占め、中強度が次に多く、高強度が少ない。
中でもここ最近のトレンドとなっているのが、中強度の「ダブルスレショルド」です。
週に2回、午前と午後の二部練で血中乳酸2〜4.5 mmol/Lを狙ったセッションを行い、特にインターバル形式で取り入れることで、同じ乳酸帯の持続走と比べ、より速いスピードをこなしながらも、高強度特有の過度な疲労を避ける利点があると考えられています。
「ダブルスレショルド」は元ノルウェー5000m記録保持者のマリウス・バッケンが発案したと認識されていて、本研究の対象コーチの過半数や欧米の多くのエリートコーチが採用しており、持久系スポーツのトレーニングにおける新しい特徴と位置づけられています。
※
「ダブルスレショルド」によるアプローチは、革新的というよりも、過去100年の陸上競技のトレーニング史を踏まえつつアップデートされたもの、と私は考えています。
詳しくは、マリウス・バッケンも著者に名を連ねている下記論文をご参照ください。
Casado, A., Foster, C., Bakken, M., & Tjelta, L. I. (2023). Does Lactate-Guided Threshold Interval Training within a High-Volume Low-Intensity Approach Represent the "Next Step" in the Evolution of Distance Running Training?. International Journal of Environmental Research and Public Health, 20(5), 3782. https://doi.org/10.3390/ijerph20053782
他の共通点としては、インターバルで「オールアウトを避ける」こと。
年間を通して、ほとんどのセッションは力尽きるまで行わず、全体を通してイーブンか、後半にわずかに強度を上げる程度です。
オールアウトまで追い込むことが短期的にはピークを作り出す可能性はあるものの、長期的には回復を長引かせ、トレーニング負荷の累積を制限し、オーバートレーニングや燃え尽きのリスクを高める恐れがあるとされています。
端的に言うと、ノルウェーのコーチたちは無理なく、トータルの負荷を確保することに焦点を当てているのです。
ところで、日本では「強度が高い=質が高い」と捉えられがちです。
しかし、この論文に登場するノルウェーのコーチたちは違います。
狙った適応を得るために、処方どおりにセッションをどう実行するか、その完成度をトレーニングの「質」と捉えています。
All the key informant coaches in this study consider training quality highly important for performance development. Here, “quality” is not synonymous with “intensity” as often seen in popular science literature. Instead, training quality is defined as the degree of excellence related to how the training sessions are executed to optimize adaptations and/or improve overall performance.
論文の著者らは、ノルウェーの選手が生まれつき特別な遺伝を持つから強いとは見ていません。
より妥当な解釈として、エンデュランス(持久力)をリスペクトする文化が根付いていることを挙げています。
また、多くのチャンピオンが、登山やスキー、サイクリングが暮らしに溶け込んだ子ども時代を語っており、その日常が、さまざまな持久系スポーツに自然と触れ、持久系トレーニングを理解するコーチと出会う環境を生み出しているとも述べています。
最後に、本文のTable 5をもとに、競技を問わず彼らのコーチングに共通している点をまとめます。
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Hard–easy rhythmicity(ハード・イージーのリズム)
ハードデーとイージーデーを計画的に交互に組み込む。 -
Double intensive sessions(1日2回の強度の高いセッション)
7名のコーチが採用。目的は強度のあるトレーニングの量を増やしつつ、回復とストレス負荷のマネジメントを最適化すること。 -
Cross-training(クロストレーニング)
主にZ1で総量確保に活用。多くの競技では生理学・力学的に負荷が似ていることが前提。 -
Few session models(パターンを絞る)
強度ごとの練習パターンを少数に絞り、毎週のキャリブレーション(微調整・確認)とコントロールをしやすくする。 -
Mostly controlled, very few “all-out” sessions(オールアウトはごく少数)
年間を通じて力尽きるトレーニングは稀(レース除く)。高すぎない強度と十分な累積負荷を確保し、次のキーセッションに向けて十分回復。 -
Progressive intensity increases throughout the session(s)(セッション内漸増)
多くのハードセッションはわずかに漸増。ランでは最初と最後のインターバル差0.5 km/h、サイクリングで10–25 W差。ロング走もゾーン下限から始め、中〜上限の範囲に留める。 -
Combination of intensity zones(ゾーンの組み合わせ)
基本パターンに加え、Z1/2、Z3/4、Z4/5の組み合わせセッションも実施。 -
Altitude training(高地トレーニング)
高地では平地に比べ速度・出力が下がるため、神経筋への負荷が抑制される。インターバルは主にZ3–4、過度の疲労回避のため休息時間はやや長め。 -
Tapering strategies and easy weeks(テーパー/イージー週間)
通常より約50%短いセッション時間で疲労を減らしつつフィットネスを維持。 -
Passive recoveries(受動的休息が基本)
インターバル間は基本的にパッシブリカバリー。 -
Coach’s focus prior to the session(s)(事前の共有)
コーチはキーセッション内容を1–7日前に提示し、アスリートにメンタル面での準備を促す。 -
Coach’s focus during the session(s)(セッション中の焦点)
技術的なフィードバック、負荷変数の微調整、強度コントロール(乳酸採血・タイム/出力)。LITでも同様だが測定頻度は低め。乳酸濃度は速度・出力より内的負荷のコントロールに重要。 -
Coach’s focus after the session(s)(事後の振り返り)
各セッション後にデブリーフを実施し、良かった点と改善点を特定。次回以降におけるトレーニングの質の向上に結びつける。
この記事は、Tønnessen, E., Sandbakk, Ø., Sandbakk, S. B., Seiler, S., & Haugen, T. (2024). Training Session Models in Endurance Sports: A Norwegian Perspective on Best Practice Recommendations. Sports Medicine (Auckland, N.Z.), 54(11), 2935–2953. https://doi.org/10.1007/s40279-024-02067-4 をもとに作成したもので、CC BY 4.0のもとで使用しています。
また、本記事には筆者の見解も含まれます。
